はじめに――育児とキャリアの狭間で
女性管理職として働く私が出産・育児を経験したとき、日本社会ならではの壁や課題を痛感しました。マネジメントという立場にありながら、家庭では一児の母親。キャリアを築きたい思いと、子どもの成長を支えたい気持ち。その両方を大切にしたい――そう願う女性は少なくないはずです。しかし現実は、まだまだ日本企業における「働く母」への理解やサポート体制が十分とは言えません。
特に管理職になると責任やプレッシャーが増し、部下や会社からの期待も高まります。「母親なのに役職について大丈夫?」という周囲の目や、「家庭を犠牲にしているのでは」と自分自身が葛藤することもありました。ワークライフバランスという言葉が普及してきたとはいえ、実際には制度だけでなく、職場文化や上司・同僚との関係性など、乗り越えるべき壁が多いのが現状です。
この連載では、私自身の経験をもとに、日本で女性管理職が育児と仕事を両立するリアルな姿と、その中で見出したマネジメント術について率直に綴っていきます。同じような悩みや不安を抱える方々に、少しでも共感やヒントを届けられれば幸いです。
2. 家庭も仕事も“完璧”は求めないマインドセット
管理職として働きながら育児を両立する中で、最初に直面したのは「家庭も仕事も全て完璧にこなさなければならない」というプレッシャーでした。しかし実際には、限られた時間とエネルギーの中で全てを完璧にこなすことは非常に難しく、自分や周囲への期待値を適切に調整することが必要不可欠だと痛感しました。
自分や周囲への期待値を調整するコツ
まず、自分自身に対して過度な理想を持たないことが大切です。子どものお弁当が毎日手作りでなくても、会議資料が100点満点でなくても「今できるベスト」を認めることで心がラクになります。また、同僚や家族とも率直に状況を共有し、サポートをお願いすることで無理なく業務を進めることができます。
シーン | 期待値の調整方法 | ポイント |
---|---|---|
家庭 | 家事の一部を家族と分担する | 完璧主義を手放す |
仕事 | 優先順位を明確にし、業務を取捨選択する | 重要度・緊急度で判断 |
自分自身 | 休息や趣味の時間も予定に組み込む | セルフケアを重視 |
メリハリをつけるための工夫
オンとオフの切り替えを意識的に行うようになりました。例えば、仕事中はタスクごとにタイマーを使い集中し、終業後はスマートフォンやパソコンから離れて子どもとの時間に没頭します。このようなメリハリのある生活スタイルが、心身ともに健やかさを保つ秘訣です。
罪悪感との向き合い方
どうしても「もっと子どもと過ごすべきだった」「職場に迷惑をかけてしまった」といった罪悪感に悩むことがあります。そのような時は、自分の努力や成長した点を書き出してみる、信頼できる人と気持ちを共有するなど、日本社会特有の“和”の文化にも助けられました。「十分頑張っている」と自分を認めることが、自信につながります。
3. 夫・家族・上司とのコミュニケーション術
家庭内の役割分担を明確にする
管理職として働きながら育児もこなすには、家庭内での役割分担がとても重要です。私自身、子どもが生まれた当初は「自分で全部やらなければ」と思い込んでいました。しかし、それでは体力的にも精神的にも限界が来てしまいます。そこで、夫と話し合い、「朝の保育園送りは夫」「夕食準備は私」など、できるだけ具体的にタスクを分けるようにしました。日本ではまだまだ家事・育児を女性が担う風潮がありますが、お互いに得意なことやスケジュールを尊重し合いながら柔軟に決めることが、ストレスなく両立するコツだと実感しています。
日本独自の「イクメン」文化を活用する
近年、日本でも「イクメン」という言葉が浸透しつつあり、男性の育児参加が少しずつ進んでいます。私の夫も最初は消極的でしたが、自治体の父親向けセミナーや会社の育休制度について一緒に調べることで、「自分ももっと関わっていいんだ」と意識が変わっていきました。周囲のママ友とも情報交換し、男性が育児に参加しやすい環境づくりを心掛けています。「イクメン」は特別な存在ではなく、ごく自然な家庭像として受け入れることが大切だと思います。
会社での理解を深める話し方
上司や同僚へのコミュニケーションも両立には欠かせません。私の場合、「○曜日は子どもの通院があるため在宅勤務します」「朝は時短で出社します」など、自分の状況を具体的かつ前向きに伝えるよう意識しています。また、業務の優先順位や代替手段も合わせて提案することで、周囲から信頼されやすくなりました。「申し訳ない」という姿勢だけでなく、「どうしたらチームに貢献できるか」を一緒に考えるスタンスが大切です。
実体験から学んだアドバイス
育児と仕事の両立には、完璧主義にならず「助け合うこと」「周囲に頼ること」が不可欠です。自分一人で抱え込まず、家族・上司・同僚とオープンにコミュニケーションを取ることで、新しい気付きやサポートにつながります。もし悩んだ時は、一度家族会議や上司との面談を設けてみてください。意外な解決策や共感を得られるかもしれません。
4. 限られた時間で最大成果――タイムマネジメントの実際
働き方改革と私のタイムマネジメント
日本社会では近年「働き方改革」が推進され、柔軟な勤務形態やテレワークが普及し始めています。管理職として育児を両立する中で、限られた時間の中で成果を出すためには、自分なりのタイムマネジメント術が不可欠です。ここでは、私が実践している具体的な方法を紹介します。
時短勤務とテレワークの活用
育児との両立には「時短勤務」や「テレワーク」を積極的に利用することが大切です。私は以下のように自分に合った働き方を選択しています。
制度 | メリット | 工夫した点 |
---|---|---|
時短勤務 | 子どもの送り迎えや家庭時間の確保ができる | 業務優先順位を明確化し、無駄な会議はカット |
テレワーク | 通勤時間削減・柔軟なスケジュール調整が可能 | 午前・午後で集中業務/家事時間を分けて設定 |
優先順位付けとToDoリスト活用術
限られた時間内で成果を出すためには、「何を最優先するか」の見極めが重要です。私は毎朝ToDoリストを作成し、「緊急度」と「重要度」で業務を分類しています。
カテゴリ | 具体例 |
---|---|
緊急かつ重要 | 部下のトラブル対応・締切間近の資料作成 |
緊急だが重要でない | メール返信・定例会議(必要最低限のみ参加) |
重要だが緊急でない | 新プロジェクトの企画・自己啓発学習 |
「任せる力」で効率アップ
全てを自分で抱え込まず、部下や同僚に業務を「任せる」こともタイムマネジメントの鍵です。日本企業ではまだ「自分で全部こなす」風潮がありますが、信頼して任せることでチーム全体の生産性向上にも繋がります。
私流・任せるポイント
- 事前にゴールや期待値を明確に伝える
- 適切なタイミングでフィードバックを行う
まとめ:柔軟な発想と仕組み化で乗り越える
働き方改革やテレワークなど、日本独自の制度も上手く活用しながら、自分自身に合ったタイムマネジメント術を見つけていくことが、女性管理職として育児と仕事を両立させるコツだと実感しています。
5. 子育て経験が活きるリーダーシップ・マネジメント
育児を通して磨かれた人間力
管理職として働く中で、育児は私の人間力を大きく高めてくれました。子どもとの日々の関わり合いから、相手の立場や気持ちを汲み取る「共感力」や、思い通りにならない状況でも冷静に対応する「忍耐力」、そして予期せぬトラブルにも柔軟に対応する「対応力」が自然と身につきました。これらは、チームメンバー一人ひとりと向き合うマネジメントの現場でも非常に役立っています。
信頼関係を築くためのコミュニケーション
日本の職場では、上下関係や年功序列が根強い文化も残っていますが、「母親目線」のコミュニケーションは、チーム内の信頼関係を構築するうえで大きな武器となります。私は子育て経験から、まずメンバーの話をよく聴き、その上で適切なアドバイスやサポートを心がけています。忙しい時こそ短い時間でも“声かけ”を怠らず、一人ひとりの頑張りや悩みに気づくよう努めています。
母親ならではの観察力とフォローアップ
例えば、子どもの小さな変化を見逃さない観察力は、部下のモチベーションや体調変化にも敏感になれるポイントです。普段より元気がない様子にはそっと声をかけたり、負担が偏っていればタスクを再配分したりと、“気配り”を意識しています。日本特有の「空気を読む」文化にも通じるこの観察眼は、円滑なチーム運営に欠かせません。
多様性を受け入れるマネジメントの工夫
さらに、家庭も職場も多様な個性が集まる場所です。母親として家庭内でそれぞれ違う性格や価値観に接してきた経験から、多様性を尊重しながら一人ひとりに合わせた指導や支援ができるようになりました。こうした工夫は、日本社会で求められているダイバーシティ推進にもつながっています。
育児で培ったこれらのスキルや視点は、「女性管理職」としてだけでなく、どんなリーダーにも必要な資質だと実感しています。今後もこの経験を生かしながら、柔軟であたたかなマネジメントを目指していきたいと思います。
6. 周囲のロールモデルになるという意識
女性管理職として育児と仕事を両立する中で、私自身が「ロールモデル」として見られていることを強く意識するようになりました。
日本社会においては、依然として女性のキャリアアップや働き方改革が課題となっています。しかし、実際に現場で子育てとマネジメントを両立する姿を見せることで、後輩のママ社員やこれから管理職を目指す女性たちに勇気や希望を与えることができると実感しています。
自分の経験を惜しみなくシェアする
私が大切にしているのは、失敗も成功も包み隠さず後輩たちに伝えることです。家庭とのバランスに悩んだ時期や、チームメンバーと信頼関係を築くために工夫したことなど、リアルな経験談が「私にもできるかもしれない」という前向きな気持ちにつながるからです。
多様な働き方への理解と支援
ロールモデルとして、周囲の価値観やライフスタイルの違いも尊重し、多様な働き方を受け入れる姿勢を示すことが重要だと感じています。テレワークや時短勤務など、それぞれの事情に合わせた柔軟な働き方を認め合うことで、組織全体がより活性化していくでしょう。
今後の女性活躍推進への想い
これからさらに多くの女性が管理職やリーダーとして活躍できるよう、自分自身も常に学び続ける姿勢と責任感を持ちたいと思います。そして、「自分らしく働ける社会」を目指し、一人ひとりがその一歩を踏み出せるよう背中を押し続けていきます。
後輩ママたちへのメッセージ
育児とキャリアの両立は決して簡単ではありませんが、「できない」ではなく「どうしたらできるか」を考えることで道は必ず開けます。不安な時こそ仲間や先輩に頼ってください。そして、いつかあなた自身も次世代のロールモデルとなり、新しい風を起こしてください。