労働契約書に記載すべき必須事項と具体的な記載例

労働契約書に記載すべき必須事項と具体的な記載例

1. 労働契約書の必要性と法的背景

日本において労働契約書は、雇用主と従業員の間で取り交わされる重要な書類です。これは労働条件や待遇など、双方が合意した内容を明確にするためのものであり、誤解やトラブルを未然に防ぐ役割を果たします。

労働契約書の重要性

多くの企業では、口頭で雇用条件を伝えるケースもありますが、後々のトラブル防止や証拠としての役割から、必ず書面で契約内容を残すことが求められています。特に入社時には、雇用形態や就業時間、給与などの大事なポイントをしっかり確認しておくことが大切です。

関連法規との関係

労働契約書については、「労働基準法」や「労働契約法」など複数の法律でルールが定められています。例えば労働基準法第15条では、使用者(会社)は賃金・労働時間・その他の労働条件について書面による明示義務があるとされています。

主な関連法規と概要

法律名 主な内容
労働基準法 賃金・労働時間・休日・休暇など最低限守るべき条件を規定
労働契約法 労使間の契約内容や変更方法について規定
パートタイム・有期雇用労働法 短時間・有期契約社員の待遇改善や均等・均衡待遇について規定

記載義務事項とは?

上記の法律により、雇用主は以下の項目について必ず文書で明示する必要があります。

必須記載事項(例) 具体例
雇用期間 2024年4月1日~無期/2024年4月1日~2025年3月31日 など
就業場所・業務内容 東京都新宿区本社/営業職 など
始業・終業時刻/休憩時間/休日等 9:00~18:00(休憩1時間)、土日祝休み など
賃金(給与)に関する事項 月給25万円、交通費全額支給 など
退職に関する事項 自己都合退職の場合は1ヶ月前申告 など

これらは一例ですが、これ以外にも企業ごとに必要な項目を追加する場合があります。日本で安心して働くためにも、これらのポイントを押さえた労働契約書が欠かせません。

2. 労働契約書に記載すべき基本事項

労働契約書は、労使間のトラブルを防ぐためにも、必須事項を明確に記載することが重要です。日本の労働基準法では、労働契約書に盛り込むべき基本項目が定められています。以下に主な内容と具体的な記載例を紹介します。

雇用期間

雇用期間は、無期か有期かを明確に記載します。有期の場合は開始日と終了日を必ず明示しましょう。

項目 記載例
無期雇用 2024年7月1日から期間の定めなし
有期雇用 2024年7月1日から2025年6月30日まで

業務内容

従業員が従事する仕事内容や職種を明確に記載します。

項目 記載例
業務内容 一般事務業務全般(電話応対、資料作成等)
職種 営業職(法人営業・個人営業)

就業場所

実際に働く場所や勤務地も詳細に記載します。

項目 記載例
就業場所 東京都千代田区〇〇町1-2-3 本社オフィス
転勤の可能性 あり(全国各支店への転勤あり)

勤務時間・休日・休暇

始業・終業時刻、休憩時間、休日や休暇についても明確な記載が必要です。

項目 記載例
勤務時間 9:00~18:00(休憩1時間)
休日・休暇 土日祝日、年次有給休暇、夏季・年末年始休暇等
残業の有無 あり(月平均20時間程度)/なし など具体的に記載します。

賃金(給与)について

賃金額や支払い方法、締め日・支払日など給与に関する情報も正確に記載します。

項目 記載例
基本給(月給制) 220,000円(毎月25日締め、翌月10日支払い)
手当等の内訳 通勤手当:上限20,000円/月 残業手当:法定通り支給 役職手当:30,000円/月 など具体的に記載します。
賞与 年2回(6月・12月)、会社業績及び個人評価による
昇給 年1回(4月)、会社規程による

まとめ:

労働契約書には上記のような基本事項を必ず盛り込みましょう。これらの内容を明確に記載することで、お互い安心して働くことができる環境づくりにつながります。

その他記載が望ましい事項

3. その他記載が望ましい事項

労働契約書には法律で定められている必須事項のほかにも、職場でのトラブルを未然に防ぐために、追加で記載しておくと安心な項目があります。ここでは、特に多くの企業で取り入れられている試用期間、退職・解雇、服務規律、機密保持などについて説明します。

試用期間

新しく従業員を採用する際、一定期間「試用期間」を設ける企業が多いです。労働契約書に明記しておくことで、お互いのミスマッチを防げます。

項目 具体的な記載例
試用期間 入社日より3ヶ月間は試用期間とし、期間満了後に本採用とする。
試用期間中の待遇 試用期間中も給与・勤務条件は本採用時と同じとする。

退職・解雇

円満な退職や万が一の解雇の場合についても明文化しておくことで、不安や誤解を防ぎやすくなります。

項目 具体的な記載例
自己都合退職 退職を希望する場合は、原則として30日前までに申し出ること。
解雇事由 重大な規律違反や業務不適格の場合、会社は解雇できるものとする。

服務規律(就業規則との関連)

従業員として守ってほしいルール(遅刻・早退の連絡方法や服装規定など)も簡単に触れておくとよいでしょう。詳細は就業規則に譲りつつも、契約書内で一部言及しておくと安心です。

記載例:

「服務規律その他就業上のルールについては就業規則によるものとし、従業員はこれを遵守するものとする。」

機密保持義務

会社の情報漏洩を防ぐためにも、機密保持に関する条項は重要です。特に顧客情報や営業秘密などを扱う場合は必ず盛り込みましょう。

記載例:

「在籍中および退職後も、業務上知り得た会社の機密情報を第三者に漏洩してはならない。」

まとめ表:望ましい追加記載事項一覧

追加事項 主な目的・ポイント
試用期間 ミスマッチ防止・採用判断期間の明確化
退職・解雇 手続きの明確化・トラブル予防
服務規律 職場秩序維持・就業ルール周知
機密保持義務 情報漏洩リスク対策・信用維持

このように、法律で義務付けられていない内容でも実際の職場運営やリスク管理の観点から重要な項目があります。会社ごとの状況や業種に合わせて必要な内容を検討し、労働契約書へ盛り込むことが大切です。

4. 具体的な記載例の紹介

労働契約書に記載すべき必須事項は法律で定められていますが、実際にどのように記載するか悩む方も多いでしょう。ここでは、日本の職場でよく使われる表現や、各項目ごとの具体的な記載例を表にまとめてご紹介します。

主な必須事項と具体的な記載文例

項目 日本語表現例 ポイント
契約期間 本契約の有効期間は、2024年4月1日から2025年3月31日までとする。 開始日・終了日を明確に記載。
就業場所 就業場所は、東京都千代田区○○1-2-3 ABCビル5階とする。 正式な住所を記入。
従事すべき業務内容 総務部における一般事務業務全般。 担当部署や仕事内容を明示。
始業及び終業の時刻、休憩時間 始業9時00分、終業18時00分、休憩時間12時00分から13時00分まで(1時間)。 具体的な時間を書くことが大切。
休日・休暇 休日は土曜日・日曜日及び国民の祝日とする。有給休暇は法定通り付与する。 週休二日制の場合はその旨も記載。
賃金(給与) 基本給200,000円 毎月25日支給。残業手当別途支給。 支給額・支払日・手当について詳しく書く。
退職に関する事項 退職希望の場合は30日前までに申し出ること。 退職手続きの流れも簡潔に説明。

その他によく使われる表現例

試用期間について

試用期間は入社後3ヶ月とし、その間の勤務成績等により本採用を判断する。

社会保険等への加入について

健康保険・厚生年金保険・雇用保険に加入するものとする。

ポイント解説:
  • 曖昧な表現を避け、誰が読んでも理解できる文章で記載しましょう。
  • 法律上必要な内容だけでなく、会社独自のルールも明確に記しましょう。

これらの具体的な文例を参考に、自社の労働契約書作成や見直しに役立ててください。

5. まとめと注意点

労働契約書は、企業と従業員双方の権利と義務を明確にする重要な書類です。作成時には、法律で定められた必須事項を漏れなく記載し、分かりやすくまとめることが大切です。ここでは、労働契約書作成時の注意点や、作成後の保管・管理方法、従業員との合意形成の進め方について解説します。

労働契約書作成時の注意点

注意点 具体的な説明
法定記載事項の確認 労働基準法などで定められている必須項目(労働条件、賃金、勤務時間など)を必ず盛り込む。
曖昧な表現を避ける 「原則として」や「あくまで目安」などの不明瞭な言葉はトラブルの原因になるため避ける。
最新の法改正への対応 定期的に内容を見直し、最新の法律や社内規程に合致しているか確認する。

労働契約書の保管・管理方法

  • 契約書は会社側・従業員側ともに1部ずつ保管します。
  • 紙で保管する場合は、耐火金庫など安全な場所に保存しましょう。
  • 電子データの場合は、適切なセキュリティ対策とバックアップを実施してください。
  • 保管期間は退職後も最低3年間(法令上は5年推奨)となっています。

従業員との合意形成の進め方

1. 説明責任を果たす

契約内容については、専門用語や難しい表現を避けて丁寧に説明し、不明点があればその場で解消するよう努めましょう。

2. 修正・要望への対応

従業員から修正や要望があった場合は、会社の方針や法律に反しない範囲で柔軟に対応する姿勢が信頼関係構築につながります。

3. 書面による同意取得

最終的には、両者が納得したうえで署名・押印し、正式に合意内容を確定させてください。

まとめ表:作成~管理までの流れ

ステップ ポイント
1. 必須事項の確認 法定項目をチェックリスト化して漏れなく記載
2. 内容説明と合意形成 わかりやすい説明と質疑応答で納得感を醸成
3. 書面交付と署名・押印 双方が同じ内容であることを確認し正式締結
4. 保管と管理体制整備 適切な場所・方法で厳重に保管し管理責任者を明確化
5. 定期的な見直し 法改正や社内制度変更時には速やかに更新・再配布

労働契約書は単なる事務手続きではなく、従業員との信頼関係を築く第一歩です。上記ポイントを押さえて、適切に作成・運用しましょう。